山の環境ISO

 人間による自然破壊が問題になっていますが、昔は企業による主に人間への悪影響が公害問題として取り上げられてきました。ところが、現在では多数の人類の文化的な生活レベルの維持自体が、地球環境への負荷を増大させ、自然環境の破壊の元凶となって来ました。

 現在、企業や地方自治体では、この環境への負荷を低減させる活動として環境マネジメントシステムISO 14001を取得する動きがあり、既にISO14001取得企業の数は日本が世界で一番になっています。

 ISOとは、the International Organization for Standardizationの略で国際標準化機構と訳され、電気以外の分野における国際標準化推進の責任を持っている国際組織です。

 ISOの規格としては、品質に関する9000シリーズと環境に関する14000シリーズがあります。環境ISO14001の規格要求事項の概略を簡単に述べると、組織は著しい環境影響を持つ環境側面を配慮した環境目的や目標を設定し、実施体制を整え、教育訓練を実施し、情報交換し、記録に残す。要するにPDCA(Plan,Do,Check,Action)を回しながら企業等の組織が環境への負荷を低減していこうというシステムです。

 さて、現在の山の状況を見ていると我々山に登っている人間もこの環境ISOの考え方を取り入れていく必要があるのではないかと最近考えています。なぜなら、登山者が山に環境負荷、即ちダメージを与えているのは明白だからです。例えば、40〜50年前の日本アルプスの高山植物の量。写真で見ると信じられないほどの凄さ。屋久島の縄文杉の周りの根の露出なんか登山者の影響以外の何物でもない。登山者の糞尿による沢水の汚染、高山湿地帯の富栄養化。ごみの散乱。まだまだ、あると思う。要するに山に登ると言う行為が山の自然を破壊することに直結していると考えるべきだと思う。世界にあなたや私一人だったら、こんなことは言いません。少々の事をやっても自然の回復力にかなわないからです。

 現在は違います。何万、何十万、何百万の人間が狭くて、少数の有名山岳地帯を目指して集中するのですから。九州で言えば、九重山系。ミヤマキリシマの季節は登山者の列、車も列。2月は仰烏帽子山、岩宇土山のフクジュソウ。もう少し経つとカタクリ。何でワンパターンで皆行動するのか、信じられない。

 たかが山歩きに高尚な理屈はいらないが、しかし、もう少し主体性を持っても良いんじゃないか!と思う。

 話が逸れましたが、これからは登山者も自分の登山と言う行為が、自然に負荷を与えていることを認識し、その負荷を出来るだけ軽減するには、どうすべきか考えるべきだと思います。

 では、ここでISO14001をまねて、山に関する行動の簡単な環境影響について考えてみましょうか。本当なら個々の影響の大きさや頻度、影響確認の可能性等に応じて影響の度合いを点数化するのが望ましいのですが、そこまではしません。
 マイナスの環境側面
 ・山を歩くことによる登山道の土砂の流失
 ・ストックの使用による登山道と脇の掘り返し
 ・アイゼンの使用による木の根の損傷
 ・時期に応じた貴重な山の情報開示による登山者の集中に起因する負荷の増大
 ・登山靴に付着した種子や卵の他山域への放散による動植物の遺伝的交雑化
 ・糞便による水の大腸菌汚染
 ・高山植物や希少菌類類の踏み締めによる減少
 ・高山植物の盗掘による減少
 ・ごみの放置による景観の悪化と動植物の生態系の破壊
 ・目的地までの移動によるガソリン等の資源の浪費、CO2増大。
 登山による環境負荷の増大要因はまだたくさんあると思います。

 さて、では山に登る我々は何を心掛けるべきでしょうか。
 上記、マイナスの環境側面を極力減らすことも一つの手だと思います。例えば、
 @正しい用具の使用法を伝えると同時に用具により環境への負荷が増大することを伝える。
 A用具の使用を登山者自身の保護ばかりの観点から見るのではなく、環境への影響の観点も常に視点に入れて考える   べき事を伝える。
 B山のマナー、法的規制教育を徹底する。
 CHP等の情報発信においては、登山者の欲望満足だけでなく、常に環境面を視点に入れて情報発信する。
 D希少種や時期の情報に関しては、登山者集中を避けるため、タイミングをずらして情報発信する。

 具体的には、例えば@A。ストックやアイゼンは登山者の快適登山の面からのみ議論されることが多いのですが、一方で土の掘り返し、木の根へのダメージ等確実に自然環境への負荷が増大することを使用者に認識させるべきです。私から見れば、九州でなんでこんなところでと言った場所で立派なアイゼンを着けて歩いている人間の何と多いことか。アイゼンて雪の上で着けるものか? 春になったら登山道の石にアイゼンの傷がいっぱい付いているけど、同じように木の根っこを踏んづけて傷つけているわけでしょう。九州でアイゼンが本当に必要な事ってほとんど無いんじゃないの? それをちょっと雪が降ったら立派なアイゼンを直ぐに付ける登山者の何と多いことか。

 ホームページ上で登山道具の話しになった場合、まだ環境保護の観点から意見を述べる人は数少なく感じます。どこどこの九州の冬山は何本爪アイゼンが必要か? 4本、6本、10本、12本爪が良いですよ! それで良いんですか? さくさく気持ちの良い雪上でもアイゼン使わせて、薄い雪の下の気の根っこを痛めて付けて何とも思わないような感覚を認めてはいけないんじゃないでしょうか。

 山の情報交換はいいけど、有名山岳地だけに集中する今の現状は私は納得がいかない。少なくとも登山者集中は環境負荷の増大で自然の回復力を阻害することを認識すべきだと思う。九重山系の近年のミヤマキリシマの害虫被害を登山者の影響だとはいわないが、影響してないとは断言できないではないか。

 キヌガサタケの季節になると写真撮影のために登山道を外れて近寄って行く登山者が後を絶たない。キヌガサタケは登山道脇に咲くことが多いので、登山道から外れることは、キヌガサタケの卵を踏み潰していることになる。「自分だけ良い思いをすればよい。」 そんな登山者が多いのも事実である。そんな連中に貴重な情報を流して本当に良いのか。だから情報開示は慎重にしなければならない。今の世の中、求める人がいるのだからと言って、何でも実行する風潮があるが、その考え方は本当に正しいのか。人間限界があること、してはいけないことがあることを認識することが重要なのではないか。昔、かなり昔の話しなので良く覚えていないが、日本アルプスのスーパー林道構想を政府が発表したとき、閣僚の一人が次のような意味のことを言った。「このスーパー林道が出来たら、自分で山に登ることのできないお年寄りや寝たきりの人でもこの素晴らしい自然に接することが出来るのです。」 人間のために自然をどういじくってもいいの?人間の我儘じゃないんですか? 人間のために自然を自由に操っていいと考えるのは、西欧の合理主義的な考え方であり、私は嫌いである。個人の欲望はそんなに絶対なのか? おかしいんじゃないか!

 登山用品店、登山企画旅行会社、山のリーダー等は環境について勉強すべきである。彼らは環境教育を普及させる義務がある。その為には、まず、登山用品店、登山企画旅行会社がISO 14001を取得して、まず勉強したらよい。金は掛かるけど。顧客への環境教育の普及を通して、環境負荷の低減を図る道もある。

 今のまま、登山者の我儘登山が続くなら、登山全面禁止もしかたないのでは。極論だけど。

 そうそう、自分のホームページを含めて山の情報開示は自然破壊に手を貸してるみたいで、止めた方が良いのではないかと考える部分がある。まあ、このホームページの場合、あまり見る人もいないので良いか。

(2005年3月6日記) 

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